ぽつんと一軒家、新しく入ってきた人もいるが先祖代々住み続けている人も多い。幼少期をそこで過ごし、年老いて故郷に帰還する典型的なUターンだ。鮭やマスのような帰巣本能だ。
農耕民族の弥生人は日本各地に定住し、氏神様を奉り、荘園制度で小作人となったり、あるいは封建時代を土地にしがみついて生き延びて近世に入るわけであるが、それまでは親の仕事を継ぐのが当たり前で、生地を離れたものは流れ者、よそ者として肩身の狭い思いをして行き場もなかったのであるが、近世に入ると工員や坑夫、行員、教師、官吏など月給をもらえる仕事が生まれ、多くの人々は生地を離れて都会生活を始めることになる。学校を卒業したら東京に本社のある企業に就職することがある種のステイタスみたいになってしまう。人口が密集した都会はやがて政治、経済、文化の中心と化していく。土地本位制から貨幣(資本)本位制へと移行した。都会で暮らしている人の方が農漁村で暮らしている人よりも多い時代になってしまう。首都圏に住む人口が39,00万人なので日本の人口の3分の1がそこで暮らしていると言うことになる。国の方針も経済の目標も都会優先となる。冷遇された地方の中でも特に取り残されたのがぽつんと一軒家と言う事か。
都会人はぽつんと一軒家を見て懐かしんだり新鮮さを感じたりする。そこには薪で風呂を沸かしたり、谷川の水を引いて上水道とするようなプレモダン(近世より前の時代のこと)の世界が広がる。
不便だけど落ちつく世界だ。職業選択など自由度は低く、窮屈であるが、それに甘んじれば10年1日のごとく変化のない生活を送ることができる。おそらく現代人がなくしたのは、目まぐるしく変化しない生活なのだろう。そこでは競争しなくても良いのだ。
(註:近世は合理性や個人を重視した時代で、日本では明治維新に始まり太平洋戦争くらいまで)

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